数あるAGA治療における自毛植毛のなかでも、近年では毛包単位でドナーを移植するといった繊細かつ緻密な植毛も選択肢の一つとしてあげられますが、こうした自毛植毛にさいしては植毛する自毛を後頭部から移植するのに対して、植毛ではなく頭皮そのものを移植する皮弁法(フラップ法)という外科手術があります。髪の毛を一本一本植え付けるという時間と労力がかかる植毛と異なり、頭皮そのものを移植すれば数千本という毛髪を短時間で移植できることから、広範囲で薄毛が進行してしまった人にとってはコストだけでなく体力面等においてもメリットがあるように思われがちな外科手術ですが、頭皮そのものを移植するために執刀医の技術や臨床経験が術後の経過に大きく影響を与えるため、大きなデメリットが生じることも頭に入れておく必要があります。現在では皮弁法(フラップ法)を推奨するAGAの医療機関は稀ではありますが、そのメリットとデメリットについて紹介いたします。
皮弁法(フラップ法)とは側頭部や後頭部の頭皮のある部分を活用する外科手術のことであり、側頭部の皮膚の一辺を残し、残った三辺にメスを入れて切り取った後、残していた一辺の中心を回して前頭部の髪の毛が薄い部分へ一気に移植させる方法です。皮膚ごと薄毛の部分に移植させることはできますが、移植後には長く側頭部や後頭部に大きなキズが残るだけでなく、移植する頭皮につながる血流バイパスが確保できないと、さまざまなデメリットが生じてしまいます。そんな血流バイパスが確保できない場合におこる症状の一例として皮膚の壊死があり、ドナーを移植する自毛植毛で見られるようなショックロスという一時的な脱毛とは比較にならない合併症を引き起こすリスクやデメリットがあることを肝に銘じておかなかければなりません。
こういう事態に陥ってしまっては何のために薄毛を克服するためのAGA治療を行ってきたのか意義を見いだせずに今後の人生にも暗い影を落としてしまうだけでなく、植毛針をつかって行うようなきめの細かい植毛では可能な自然な髪の毛の流れについても、数千本単位の移植では不自然な髪の毛の流れは避けられず、見た目を気にしてAGA治療に取り組んだはずなのに元の木阿弥となってしまいます。
あらためていうまでもなく皮弁法(フラップ法)はリスクの高い外科手術であり、安全性においても、毛髪の成長や定着率においても、さらには見た目の不自然さにおいても、メリットどころかデメリットが多く目立ってしまいます。そのため、AGA治療を行う病院やクリニックでは推奨するどころか手術そのものを行うことも少ないため、もし皮弁法(フラップ法)を提案する医療機関があれば、その理由や術後のケアだけでなく過去の臨床データなども十分に知ったうえで、なおかつ本当に必要な治療かどうか再確認してみましょう。
短時間で大量の髪の毛が移植できれば、精神的にも肉体的にも負担が減るかもしれませんが、どんな治療方法を用いても、AGA治療は原則として自費による診療であるため、経済的には大きな負担となります。またフラップ法だけでなく、高度な技術を用いた最新の自毛植毛であっても、施術後のケアや髪の毛の成長を促す治療プログラムがあってこそ薄毛という悩みが改善されるため、三ヶ月や半年といった短期間ではなく、最低でも一年以上といった長い目で治療の過程を見届けていく心構えが必要となってきます。ひとえに自毛植毛といっても、数千本単位での移植から毛包一つずつという単位へと変化しているだけでなく、近年では、専門医による医師の手だけでなく、最新式のテクノロジーを駆使したロボットが頭皮からドナーの採取を行う時代です。安易に決断せず、さまざまな選択肢のなかから自分に合ったAGA治療を見つけましょう。